世界保健機関(WHO)は27日夜、世界各国に感染が
拡大した豚インフルエンザの世界レベルの警戒水準
(フエーズ)を一段階上の「4」にひきあげ、人から人へと
急速に感染する新型インフルエンザの発生を宣言した。
世界的大流行(パンデミック)に移行する可能性がある。
Fresh Swine Flu Virus Cases:新型豚インフルエンザ・
ウイルス感染
ウイルスは遺伝子核酸として、DNAかRNAのどちらかの
一方しか持っていない、またウイルス自身の構成要素で
あるタンパクを合成する機能も、エネルギー産生系も
持たない。したがって人口培地で外部から栄養源を与え
ても、まったく増殖できない。そのためウイルスは他の
生きた細胞(宿主細胞)に侵入し、その細胞のタンパク
合成系やエネルギー産出系を借用することによって、
宿主細胞を介して、ウイルス自身を複製させている。
これらの細胞はその機能を、もっぱらウイルスの複製・
増殖のために使用し、その結果多くの場合、細胞自身は
死滅してしまう。
宿主細胞の機能は、宿主の種類によって、それぞれ
微妙に異なっているため、ウイルスごとに、相性の良い
宿主の動物の種類が限定される。
この宿主特異性、臓器特異性がそのウイルスの病原性
などの性質に深くかかわることになる。
A型インフルエンザ・ウイルスはヒトのみならず、カモなど
多くの鳥類、ブタ、ウマ、アザラシ、クジラなどの広い
宿主域を持つ。この地球上最大規模の幅広い宿主域が、
人獣共通感染症としての伝播流行様式と病原性の発現
に大きく関わっている。
○インフルエンザ・ウイルスの構造
インフルエンザ・ウイルスはオルソミクソ・ウイルス科に
属し、内部タンパクの違いにより、A,B,C型に分類。
C型インフルエンザ・ウイルスは「かぜ」の原因ウイルスの
一つであるが、インフルエンザの病原とはならない。
遺伝子は一重鎖のRNAであり、タンパク合成の鋳型になる
メッセンジャーRNAとは相補的なRNAである。
遺伝子RNAは、A型とB型ウイルスでは8本の分節に分れて
いる。各遺伝子分節は各々別のウイルス・タンパクを作る
ための遺伝情報を持ち、これにもとづいて、感染細胞内で
各々のメッセンジャーRNAが転写されて、さらにそれぞれの
タンパクが合成される。また感染細胞内では各々の遺伝子
分節が多数作成され、新たに作成された各タンパクと
各遺伝子分節が再集合することによって、子孫のウイルスが
作られる。
A型とB型ウイルス粒子の表面には、赤血球凝集素(HA)と
ノイラミニダーゼ(NA)という2種類の糖タンパクが、各々
10~14ナノメートルの大きさでスパイク状に並んでいる。
A型ウイルスのHAとNAは抗原性の違いにより亜型が区別
され、HAには十五亜型、NAには九亜型が存在する。
A/H1N1とは、A型インフルエンザ・ウイルスでHA亜型が1型
でNA亜型が1型という意味。
かって流行したA型インフルエンザ・ウイルスをこの表記で
表すと、1918年のスペインかぜと1977年出現以来現在に
いたるソ連型はA/H1N1型、1957年以来のアジア型は
A/H2N2型、1968年から現在にいたる香港型はA/H3N2型
である。2001年には香港型とソ連型の混じったA/H1N2型
ウイルスも出現している。
一方B型ウイルスのHAとNAには亜型が存在せず、ヒト以外の
自然宿主もない。
インフルエンザ・ウイルスは、カモの腸管の中に永遠の住処を
見つけ出したウイルスである。カモという宿主を殺すことなく、
その腸管の中ではH1-H16,N1-N9までの全種類のインフル
エンザ・ウイルスが存在する。インフルエンザ・ウイルスは子孫
を安定的に繁栄させ続けるために、途方もない年月の末に、
カモに適応して、カモと共存できる宿主関係を構築したのだ。
水鳥から家禽という感染がおこり流行が始まった。それが鳥
から人へと鳥インフルエンザが感染するという新たな事例が
見つかることになった。1997年の香港である。このとき、
18人が鳥のH5N1型ウイルスに感染し、内6人が死亡している。
鳥のインフルエンザ・ウイルスが直接人に感染するとは予想
だにされていなかった。しかも鶏を100%も殺してしまう、
高病原性のウイルスであった。これに感染した患者も重症化し、
死亡する割合が高いことも驚くべきことであった。
鳥インフルエンザに感染した人に、毎年流行している従来の
季節型のインフルエンザガ同時に重感染を起すと、鳥と人の
ウイルスが体の中で交じり合う(遺伝子交換)可能性が考え
られる。その結果、なかには人から人へ容易に感染しうる
伝播力をもったウイルスが出現することになる。
別の経路としてブタの介在が考えられる。ブタの細胞は人と
鳥のウイルスの両方に感染しうるのだ。このためブタの体内で
人と鳥のウイルスの重感染が起これば、鳥と人の混ざり合った
ウイルスが生まれてくる可能性がある。
人の新型インフルエンザは鳥のH5N1ウイルスの変異型と予測
さていたが、今回出現した新型はブタH1N1型ウイルスの
変異型であった。
人の遺伝子はDNAで、このDNAのエラー(突然変異)に対する
修復機構を持っている。しかしインフルエンザ・ウイルスの
遺伝子はRNAで、RNAは、遺伝子の読み違え、塩基の付加、
または欠損に対して修復機構を持たない。また増殖スピードが
速いということは、それに連動して遺伝子の複製も行われること
になり、結果として哺乳類が100万年かけて行う進化を、たった
1年でやり遂げてしまう。インフルエンザ・ウイルスはこのように
毎年少しずつ進化していく。そして過去に罹ったインフルエンザ
の免疫記憶を巧妙にすりぬけて人に感染する。そのため、毎年
違ったインフルエンザ・ウイルスのワクチンが必要になってくる。
○スペインかぜ
1918年3月、アメリカ・カンサス州の陸軍キャンプで発生した
のが、スペインかぜの最も早い記録である。4月には米国中に
広がり、ヨーロッパ戦線に向かう船舶によって、フランスに持ち
こまれた。5月にはポルトガル、スペイン、6月にはドイツ、
イギリス、スカンジナビアでも流行が始まった。
アメリカの参戦は、はからずもスペインかぜの参戦というかたちで
戦局に大きな影響を与えることになった。さらに、当時中立国で
あったスペインが報道規制を行っていなかったので、この新型
インフルエンザはスペインを中心に流行していると誤解されて
しまった。
このためスペインかぜ(欧米ではスペイン・インフルエンザ)という
不名誉な名前がついてしまったのだった。
1918年から19年にかけて、世界は新型インフルエンザ「スペイン
かぜ」に席捲された。この疫病による死亡者は全世界で4千万人
と言われる。最近ではアフリカなど統計に入っていなかった地域の
犠牲者を加味して、8千万人から1億人と推定されている。
当時の第1次世界大戦での戦死者は1千万人であった。
当時の世界人口20億人のうち5億人が発症した。犠牲者数は
アメリカ55万人、イギリス20万人、ドイツ23万人、イタリア50万人、
ロシア45万人、日本38万人、中国推定1千万人、インド推定
2千万人である。
スペインかぜウイルス(H1N1)は人に対し強い病原性を持っていた。
第1波は1918年の春から夏、第2波は8月末まずフランスの港町
に上陸し、それが船に乗って北米やアフリカに輸送されて行った。
この第2波が特に大きな健康被害をもたらした。
第3波もあり、計2年間続いた。
症状には2種類あって、肺に水が溜まり呼吸困難になって数時間
から3日のうちに死亡するタイプと、悪寒、発熱といった通常の
インフルエンザ症状から、細菌感染による合併症で肺炎となる
タイプの二つが認められた。また通常ではあまり重症化しない
若い壮健な世代にも多くの犠牲者がでたことも特徴である。
1918年の時点では、まだインフルエンザの病原ウイルスは発見・
同定されておらず、日本では流行性感冒(流感)と呼ばれていた。
現在ではスペインかぜウイルスは鳥ウイルス由来と考えられて
いる。
○現在のブタ・インフルエンザで疑問の点は
メキシコでは健康なはずの若者に多くの死者がでる一方、
米国などでは比較的軽症な患者が多い。ウイルスの毒性の差
によるのか、ほかの病気と重なっている場合があるのか、
医療態勢の違いか。
メキシコでは発見・処置が遅れた。3月の時点で事例の発見が
あった。4月16日にメキシコ当局が把握、米CDCに検体を送る。
23日豚インフル・ウイルスと確認されたが、拡大防止対策に
1週間の遅れが生じた。
治療薬タミフルとリレンザ(グラクソ・スミスクライン名、ザナミビル
水和物)は今回のウイルスにも有効とみられる。
現在のインフルは急に、感染しやすく、人を重症化させる、凶悪な
タイプに変化するのか、予想は困難な状態にある。
鳥のウイルスを心配していたら、手ごわい豚のウイルスが現れた。
人智の及ばぬ自然の脅威を感ずる。
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